福澤徹三著「東京難民」
東京で大学生活を送る平凡な男子学生が、ある日を境に、転落人生を歩み始めます。
あれよあれよという間に底辺に落ちてゆく過程に、ページをめくる手が止められず、一気に読み終えました。
大学生の転落人生
九州の両親に仕送りをしてもらい、東京の私立大学に通う主人公。
誰でも入学できるような偏差値の低い大学。
勉強が好きでもなく、向上心があるわけでもない、そんな大学生です。
真面目に授業に出るわけでもなく、ただ何となく怠惰に過ごす毎日。
しかしある日、両親が行方不明になり、学費未納で大学は除籍、仕送りも途絶えてしまいます。
そこから、彼の転落の人生が始まります。
貧困のスパイラル
住んでいるマンションの家賃滞納により、部屋を追い出されることから始まり、彼は坂道を転げ落ちるように、下へ下へと落ちて行きます。
読み進めて感じたことは、この主人公も考えが甘いというか、浅はかな面があり、もし彼にもう少し賢いところがあれば、転落し始めた時点で、最悪の事態は避けられたのではないかということです。
読みながら、「どうしてその選択をするのか?」ともどかしい気持ちになりました。
しかしよく考えてみると、彼の甘い考えも致し方ないのかもしれません。
実家は特にお金持ちだという設定ではないけれど、東京の私立大学へ進学させてもらい、仕送りをひと月十五万円もしてもらっている主人公。
大変恵まれていると思います。
でも、自分が恵まれているという認識はなく、もっとたくさん仕送りを貰っている友人を羨んでいるくらいなのです。
そんな彼は、自分の境遇に感謝することもなく、自分の人生や社会について、何か問題意識を持つこともなく、おそらく読書をすることもなく、ただ何となく毎日を過ごしています。
そんな大学生が、突然の境遇の変化に冷静に、賢く対応できるわけはないでしょう。どこまでも甘く、その場しのぎの行動が裏目に出てしまいます。
貧困ビジネス・裏社会の恐ろしさ
一度貧困状態に陥ってしまうと負のスパイラルに巻き込まれます。貧困ビジネスに搾取されたり、また、高収入の仕事を求めると恐ろしい裏社会に繋がっていることが多く、気が付けばお金だけではなく、身も心も、もうどうにもならない状況まで転落してしまいます。
日雇い派遣の過酷な状況、消費者金融、臓器売買、華やかに見えるホストクラブの世界の裏側、治験のアルバイト、ネットカフェ難民・・・。
普通の生活をしていると、知ることのない、信じられないような悲惨な世界を垣間見ることが出来ました。
私とは関係のない世界、ではない
主人公の転落人生を、他人事だと思う人は多いと思います。
でも、これは誰にでも起こりうることでしょう。
今、豊かに暮らしているのは、たまたま運が良いだけのことです。
会社が潰れたり、突然病気になって働けなくなったり、親の介護が始まったり・・と様々なアクシデントが運悪く次々と起これば、たちまち窮地に立たされるのではないでしょうか。
常日頃から問題意識を持ち、ある程度はお金を貯めておく、暮らしを小さくしておく、いざというときに助け合いが出来る友人関係を構築しておくなど、個人で出来ることはやっておかなければと強く感じました。
読み進めるのが辛くなることもありますが、貧困問題について考えさせられる良いきっかけになる小説であると思います。